いろこよみ「灰桜」2018春

 

桜が私たちを惹きつけるのは、木がまるごと花になって咲く、その華やかさからだろう。満開の並木も、新緑のなかにぼっぼっと咲く山桜も、芽吹きの季節そのものをみるようで嬉しくなる。春のかすみのなかで、花の色はときに灰がかってもみえる。その奥ゆかしさがまた良い。

春といえば桜を心待ちにする私たちだが、奈良時代には桃が親しまれていたのが桜に変わったのは、平安以降に和の文化が芽生えてからだという。江戸になると渋好みの桜鼠(さくらねずみ)という色が現われ、その後桜鼠に少し赤みと明るさを加えた灰桜が生まれた。時代の新しい伝統色だからこそ今の感覚にも合っていて、たとえば着物として全身に色をまとうときにもすっと馴染む。

和装にみられる日本の色に触れると、その繊細さと色数に圧倒される。それを生み出した感性は、はじめからあったのではなく、目にするものに育てられたのだ、と湿度や光によって色を変える桜に思う。

 

おはなしsalad 2018春号 https://www.radishbo-ya.co.jp/rb/salad/catalog/1803/index.html