いろこよみ「墨色」2019冬

   寒さに比例して夜が長くなっていく頃、なんともいえない寂しさに耐えていると、そのうちに年が明けて、わずかに日が伸びていく。新年が冬至の直後に訪れるのは偶然ではなく、古来多くの地域で新年は冬至と関連して決められてきた。  暗い夜には火をたいてあかりとし、暖をとり、料理をする。そうして天井…

2020年01月07日

いろこよみ「栗梅」2019秋

鬼皮を剥いて、何度か茹でこぼしてから砂糖を入れて煮込むと、煮汁に滲み出る濃厚な赤み。名前からして美味しそうな「栗梅」という色を知ったとき、これは栗の渋皮煮の色だと思った。 栗梅とは赤みのある栗色のことで、「栗色の梅染」が略されたものだという。栗色の布をさらに梅の幹を刻んで煎じて煮出した汁で染めて、赤…

2019年11月07日

いろこよみ「藍色」2019夏

  藍の様々な色を含んでみえる複雑さ、奥ゆきと、いつまでも錆びないような瑞々しさがどうにも好きで、藍染めの浴衣ばかり持っている。浴衣に袖を通すと、藍の染液にぎらりと沸く青い泡、通称”藍の花”と、そのすえたような匂いを思い出す。  興味深いことに、「藍」というひとつの青い植物があるわけではな…

2019年06月10日

いろこよみ「山吹色」2019春

  ながらく実物を知らず、使わなかった絵具の色として覚えている山吹との出会いは大人になってから、春の野山を歩いていたときのこと。草むらから、ふーっと大きく飛び出す黄色い花々を、なんてきれいな、けれど知らないこの花は何かと調べたら山吹だった。 古くは万葉集に詠まれ、王朝文学が記された頃には桜…

2019年05月16日

いろこよみ「氷のかさね」2018冬

  厚く張った氷。さくさく鳴る霜。静かに降る雪。冬の冷たいものは白いから、白を着ること、それも全身となれば寒々しいようで控えてしまうのだけれど、平安時代からの衣装配色「かさねの色目」には、氷のかさねという、白に白を合わせるものがある。 当時の人々はその季そのままを表現することを何よりも尊び…

2018年12月29日

いろこよみ「葡萄染」2018秋

  秋のある日、山葡萄でジュースを作った。真珠のように光る実を潰して、少しおいてから皮と種を漉すと、紫の水がたゆたいながら深く透きとおる。後で気づいた、部屋の壁に紫の点がふたつ、みっつ。飛んだ葡萄の汁だった。 葡萄染と書いて「えびぞめ」と読むのは、山葡萄の古名えびかずらに由来する。古くは葡…

2018年09月29日

いろこよみ「灰桜」2018春

  桜が私たちを惹きつけるのは、木がまるごと花になって咲く、その華やかさからだろう。満開の並木も、新緑のなかにぼっぼっと咲く山桜も、芽吹きの季節そのものをみるようで嬉しくなる。春のかすみのなかで、花の色はときに灰がかってもみえる。その奥ゆかしさがまた良い。 春といえば桜を心待ちにする私たち…

2018年03月08日

いろこよみ「常磐色」2017冬

  子どもの頃はだんぜんクリスマスのほうが好きだった。鈴の音、教会と天使、クリスマスツリー。そうしたものから異国の聖なる日を想像すると、胸が締めつけられてドキドキした。 実はイエスの降誕日ははっきりとはわからないらしい。クリスマスの日付は土着的な冬至のおまつりにのっとったもので、常緑樹を飾…

2017年12月15日

いろこよみ「竜田姫の赤」2017秋

  赤い色の服を着てきたんだよ。男友達が結婚した奥さんとの付き合い始めのころ、嬉しそうに話していた。だからなんだと思いつつ、デートには赤い服がいいらしい、となんとなく覚えてしまった。古来魔除けに使われるなど、赤は力のある色だ。 日本の四季にはそれぞれをつかさどる姫がいる。秋の竜田姫は風の神…

2017年10月01日