いろこよみ「竜田姫の赤」2017秋

 

赤い色の服を着てきたんだよ。男友達が結婚した奥さんとの付き合い始めのころ、嬉しそうに話していた。だからなんだと思いつつ、デートには赤い服がいいらしい、となんとなく覚えてしまった。古来魔除けに使われるなど、赤は力のある色だ。

日本の四季にはそれぞれをつかさどる姫がいる。秋の竜田姫は風の神で、染色の神でもあり、紅葉は彼女が訪れ染めていくものだと考えられていた。緑の木々が赤く変化する、その不思議に神様が見出されるのはもっともだと思う。そういえば、今でも紅葉のことを木の葉が“染まる”という。こうした言葉には当時の感性がいまだ息づいていて、無意識に違和感無く使っていることに、根っこのところで昔の人と繫がっていることを感じる。

紅葉の赤、朝焼け夕焼けの赤、景色を覆う赤はいっときのものだ。木が、空が、ずっと赤かったら、人間の精神は今とは全然違うものになっていただろう。一瞬だから鮮烈で、惹かれる。身体の中を細やかに流れている色でもある。それとどこかで引き合うのかもしれない。

 

おはなしsalad2017秋号 https://www.radishbo-ya.co.jp/rb/salad/catalog/1709/pc.html