JR TOWER SQUARE STYLE 「眠る犬」2017.8

 

メキシコ出身の現代美術の巨匠ガブリエル・オロスコの写真作品に、犬を撮ったものがあ る。だらんと脚を投げ出して、目を閉じた犬。彼の写真作品は、多くは意図的な介入があ り、なくてもなぜそれを撮ったのか見るべき視点は明らかなのだけど、犬に関してはいま いち分からず、ただ皮膚感の生々しさと、生きているのか死んでいるのかわからないのが 気になって、ここ十年くらい覚えていた。

 それがメキシコに行ったら、人通りの多いバスターミナルの入り口に、ちょうどそんな犬 がいた。誰も怒らず、どかさず、避けて通る。明らかに生きている。メキシコの犬はこう して道端に寝るのだ。疑問はあっという間に解けた。

その場に行くだけでわかることがある。旅は面白いことだらけだったが、初日にこの犬に 出会った私は、全旅程を通して得たものに引けを取らないほどの満足を味わっていた。も うこれだけで、来て良かったと思った。それくらい十年は長く、合点は一瞬だった。

 

JR TOWER SQUARE STYLE 2017.08 「カメラ語り」

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