いろこよみ「墨色」2019冬

 

 寒さに比例して夜が長くなっていく頃、なんともいえない寂しさに耐えていると、そのうちに年が明けて、わずかに日が伸びていく。新年が冬至の直後に訪れるのは偶然ではなく、古来多くの地域で新年は冬至と関連して決められてきた。

 暗い夜には火をたいてあかりとし、暖をとり、料理をする。そうして天井にたまった煤(すす)で絵や文字を描いたのが墨の起源であり、人が一番はじめに得た黒の顔料だといわれている。 

 今年は六十の手習いで習字を始めた母に誘われて、二十数年ぶりの書き初めをした。シュリシュリと墨を磨り、試しに書くと、まだまだ薄い。けれどぼやけて滲む薄墨もまたきれいなもので、じっと眺めていると、ないはずの色彩が見えた。

 来年はお絵描きを覚えたばかりの娘にかこつけて、もっと大胆に筆を走らせてみよう。部屋中に新聞紙と和紙を敷き詰めて、汚れてもいい服を着て、好きなように筆を動かして、ぼかして、滲ませて、新年の大作を描きたいと思う。

 

らでぃっしゅぼーや「おはなしsalad」2019冬号