いろこよみ「葡萄染」2018秋

 

秋のある日、山葡萄でジュースを作った。真珠のように光る実を潰して、少しおいてから皮と種を漉すと、紫の水がたゆたいながら深く透きとおる。後で気づいた、部屋の壁に紫の点がふたつ、みっつ。飛んだ葡萄の汁だった。

葡萄染と書いて「えびぞめ」と読むのは、山葡萄の古名えびかずらに由来する。古くは葡萄のことを「えび」と呼び、一説では海のエビも葡萄に色が似ていることが語源だという。こっくりした絞り汁はさぞきれいな色が染められそうだけれど、『枕草子』や『源氏物語』に登場する葡萄染の衣装は紫根という植物染料で染められたものが主で、葡萄汁ではないらしい。けれどもやはり紫を染めた始まりには、葡萄の実を潰したことがあるのでは、と幼い頃に色水を作った記憶とともに想像する。

つまんだ指先に色がしたたる。身体が中から染められていく。葡萄にはそんな力を感じて、その色づきを再現した紫の、葡萄染という名をもっともだと思う。

 

おはなしsalad 2018秋 https://www.radishbo-ya.co.jp/rb/salad/catalog/1809/