いろこよみ「藍色」2019夏

 

藍の様々な色を含んでみえる複雑さ、奥ゆきと、いつまでも錆びないような瑞々しさがどうにも好きで、藍染めの浴衣ばかり持っている。浴衣に袖を通すと、藍の染液にぎらりと沸く青い泡、通称”藍の花”と、そのすえたような匂いを思い出す。

 興味深いことに、「藍」というひとつの青い植物があるわけではない。ただ木だったり草だったり、見た目も分類状の科目も違う、けれども葉の中に藍の色素を持つ植物は世界中に生えていて、古来より人々はそれぞれの地域の植物を使って、それぞれに適した方法で藍を染めてきた。日本のそれは「すくも」法という、ごく簡単にいうと微生物の発酵を利用した方法で、発酵した染液は独特な匂いがする。瑞々しくも奥深い藍色の染色には、目に見えない無数の生き物の力が働いている。 

 大切なものは目に見えない。特別に聞こえるこの言葉は自然界の単なる事実でもある、と思う夏の午後、生気に満ちた風が吹きぬけていく。

 

 

おはなしsalad 2019夏号