離乳食つれづれ

フランスのお土産にフランスの離乳食をもらった。あけるとオレンジ色のどろっとしたペーストが180gと大容量。日本の離乳食は1パック80gくらいで売っていて、10ヶ月になるとそれを二つ食べるくらいで適正量なので総量としてはそんなに変わらないけど、しかしどろっとしたペーストオンリーで一食なんだろうか、どうだろう。というフランスの離乳食、オレンジ色はトマトでハーブが効いていて、シンプルで美味しかった。ペースト状の同じ味のものをお茶碗満杯に飽きないかと思ったけど娘は顔の下半分をまオレンジ色にしながら全部食べた。素材の味を活かして調味料以外で味付けというか、風味によって味を引き出すというのは日本と同じだと思った。

日本の場合は鰹や昆布の出汁で煮るのが離乳食の基本とされている、というか、離乳食の本にはそういうふうに書いてあるというか、出汁のとり方がお粥のつくりかたの次に基本的なこととして載っていて、市の保健センター主催の教室でもそういうことを習った。

網野善彦の『海民と日本社会』をぱらりと読んで、今わたしたちは百姓といえば農家、日本人といえば農民と思っているけれども、百姓という言葉はなんでもやるという意味で、海にまつわる仕事をしていた人も多くいて、水呑百姓という土地をもたない百姓でも海を行き来して貿易業を営んでいたりしてものすごく豊かだった人もいた、今は主要な交通手段が、鉄道と車の陸路がだから電車の通らない僻地と思われるようなたとえば半島の先端の土地が、昔は川と海の水路だったから物凄く栄えていたこともあった、というようなことが書いてあって、たしかに私たちは思ってる以上に海の民なのかもしれない、和食といえば出汁、の出汁は鰹に昆布ににぼしにトビウオにと海のものばっかりだ。和食の基本には海がある。

で、離乳食。日本の離乳食が出汁味なら他の国のベイビーは何を食べているのかなと検索してみたら、一日三食の離乳食を律儀に手づくりするのは日本くらい、という情報が出てきて驚いた。

乳から食べ物に移行する初めの食べ物は日本だとお粥で、他の国でもだいたい主食をごく柔らかく煮たもの、たとえばイタリアであればパスタをふにゃふにゃにしたもの、というのは同じようだけれども、日本ではいつからか知らないけどその最初期をごっくん期、次をもぐもぐ期、次をかみかみ期、さらにパクパク期というふうに分けていて、それぞれのタームで食べられるもの、与えて大丈夫なもの、固さ、味付けなどが細かく、基本的に家で作るものとして情報が出回っていて、しかし他の国は、ベビーフードは買うのが当たり前、もしくは離乳食という概念がなく大人と同じものを、ないし消化器官が育つまで基本乳で、というのを両端においたどちらかの傾向にあるようで、たしかに細かく段階を分けて名前をつけてその時期に適切なレシピが主食主菜副菜とあるのは日本くらいかもしれない。私は何品もつくってはいなくて、炭水化物、野菜、タンパク質の適正量だけだいたい合うように気にかけているくらいだけど、離乳食の本や育児雑誌に目を通すと3〜4品作りましょうと書いてあったりしてびっくりする。先進国後進国という言葉は好きではないけど、日本は先進国というか経済が発展した複雑な社会形態でありつつ生活を合理化できない、むしろ凝っていく日本人の性みたいなものがあって、それが日本の育児を大変にしているというか、ジェンダーギャップが少ないとされる欧米の国は離乳食は買うのが当たり前という、合理化がされているというのは、なんとも、そうかそうだよなあという気分になった。それがいいのかどうかはわからないけど、そうじゃないと、子ども育てて家事して働いて、そんなになんでもかんでもはできないよなあと。

今は子育ての中で一日三回の食事が一番面倒でぐったりするけれど、それは作ることだけじゃなくて食べさせること、かつただスプーンで口に運んで食べさせるのではなく、娘が顔中を黄色い粉だらけにしながらカボチャを口に入れたところから溢れた欠片をお皿に戻すとか、手づかみしづらいお粥系は私がスプーンで口に運ぶのだけどそのスプーンを自分で持ちたがって怒るから別のスプーンを握らせるのだけどやっぱり私が持ってるやつを持ちたがるのをなんとかかわして口にお粥を入れこむとか、握ったスプーンにお粥をのせてみたら自分の口に運んで食べることができて、娘も私も歓んで、次のステップという感じですくえるようにお皿を置くと力の入れ具合がうまくないからほじくられたお粥が飛び散るとか、口の中に水を一瞬ためて少しずつ飲むのができないみたいでストローで吸うけど八割方だらだらこぼれてくる水は滴ってもいいように床には新聞紙、テーブルにはマットが敷いてあるけどそれにしてもこぼれてるなあと思いながら見守るとか、そういうことをしながら自分の食事も済ませて、その後水で濡れた娘の服を着替えさせて、ぐちゃぐちゃの新聞紙とテーブルを片付けつつ、台所に入りたくてまた怒る娘の気を台所から逸らしつつ食器を洗う、その一連のことだからなあと思うのだが、でも買うのが当たり前だったらそれはやっぱりそのぶん楽だろう。

離乳食は栄養バランスや衛生面からも買った方が実はいいみたいな話もあって、それは確かにそうだろうなと思うので、レトルトというと添加物のイメージがあるけれど、ベビーフードはそうではなくて、与えていいものも栄養も固さも味付けも全て研究されたプロによってつくられたものなので、じゃあがんがん買っていこうかなとも思ったのだけど、10ヶ月の娘は自分で食べたい欲求が大変強くでてきて、いわゆる「手づかみ食べ」、手で食べるのは行儀が悪く感じるかもしれないが実はどんどんやらせたほうがいいというそれをやりたがる、やる時期で、それに対応する離乳食は売っていないので、レトルトのご飯ものを海苔に巻いたりもしつつ、基本は家で、大人の料理のついでに作れるものというか、一部をとりわけることで娘用になるもの、たとえば味噌汁の具を取り出して手づかみで食べさせるとか、を意識しながら作っている。

全部買う方向に踏み切ってないのは、レトルトの味に馴染んでしまって離乳食期以降の私がつくる食事を食べなくなったら、その移行に苦労することになったら面倒そう、というのもある。レトルトの離乳食はさすが味付けが凝っていて、出汁も何種類か、ものによっては帆立エキスとかそういうのまで入っていて美味しい。新鮮な食材にその場で火を通してつくった料理の美味しさは負けない、とも思うけど、普通その料理に砂糖は入れない、というものにも砂糖が入っていたり、とても食べやすい味付けがされていて、飲み込み易いようにトゥルントゥルンにとろみもつけられていて、至れり尽くせりなのだ。レトルトにしても日本の離乳食は凝っている。