髪を切る。選べないこと

 

髪を切る、ということが、思いのほか自由ではないのはどれくらい一般的な認識なんだろう。

もちろん現代において切りたい時に髪は切れるけれど、どんな髪型にもできるわけではないというか、思い通りにいくわけではないというか。私はつむじが襟足のほうにひとつあるので、そのせいで襟足の髪が浮きやすく、作れない形がある。それから、髪が少し伸びるとパーマをかけたみたいなうねりがでてくる。だから肩にかかるくらいのボブというのが難しくて、ブローも下手なので、そしてショートの方が好きなので、たいがい髪型はショートだ。

世の女性には化粧をはじめとするお手入れをとても得意とする人と、そうでもない人がいて、私は後者で、ショートヘアは日々の手入れ、セットも楽なので、そういうところでも向いているし、顔つきもショートが似合う、と思っている。

ショートは髪も早く乾かせるし、毛先も痛みにくいし、日々の手入れは楽だけど、ただ形は崩れ易いので、切りに行く頻度は高くなる。着物屋で働いていた時に美容室の社長さんがいて、「美容師はショートじゃないといけない」と言っていた。店は顧客の来店頻度をあげる努力が必要だから。ロングよりもショートの方が伸びてくる毛に対しての処置は頻繁に必要になる。でもそれもけっこう楽しいので、ショートが好きだ。マッシュルームとか刈り上げとか前髪重めとか、短いなかでも色々変化をつけられる。

だいたい私はイメージになる写真をiphoneに保存して持っていって美容師さんに見せるのだけど(それなしでイメージを具現化してくれる、もしくは全部お任せでいい感じにしてくれる馴染みの人がいたら最高だけど、いいなと思ったら引っ越すことになったりしてなかなかそこまでいけない)、昔は全然その写真通りにならないことが不可解だった。それである時、「え、頭の形とかつむじの位置とか髪質とか顔の形とかがあるんだから写真のとおりにはなりませんよ、知りませんでした?」と、その人のつくる髪型は気に入っていたけど口が悪かった美容師に小馬鹿にされる感じで言われて、そりゃそうかと思った。二十代の頃だった。今思えば、そこには美容師の腕とか志向とかもあって、イメージに寄せつつさらに私に似合うようにしてくれる人もいるし、全体として自分の好みに寄せる人もいて、それを気に入るかどうかは相性によるところが大きいけど、ただイメージ写真を持っていったってその通りにならないというのは、多くの人に当たり前じゃんと思われるかもしれないが、私にはけっこう大きな気づきだった。

この欲望を絶えず喚起させる大量消費社会、よりどりみどり何でも選べるように思える世の中で、髪型以上に実はけっこう”選べない”事態ってある。特に思うのは、コートと靴。

コートは、私は身長体重ともにわりと標準的な寸法だが、肩幅だけしっかりしているので、肩がかちっと作られているタイプのコートは苦しいことがほとんどで、ラグランスリープ的なものを選ぶことが多くなる。最近は身体に沿うような、アジア的なシルエットを意識したデザインのものも増えていて、そしてそういう意識のあるブランド、メーカーは好きなことが多いので、選べない。。と哀しい気持ちになることもなくなりつつあるけど、中学生の頃、制服にあわせるコート選びにすごく苦労したことを覚えている。形が気に入ってもことごく肩が合わず、選ぶというより肩がしっくりくるものを買うしかなかった。

肩幅があるうえに、頸椎と肩の骨と血管の位置関係が血行が悪くなりやすくできているので、肩の詰まる感じに敏感で、おしゃれのためなら多少の我慢、というのも苦手だ。気分が、体調が、悪くなってしまう。ただ一方で、この肩幅と首が少しにょきっと前にでる感じ、首の長い感じは着物と相性が良くて、肩と首で着こなせる手応えがあった。着物の仕事をしていたのにはそういう、今の社会にあるものだけじゃフィットしない感じの蓄積があったように思う。

そしてコートより更に選べないのが靴。

私の足は、長さだけは25cm近くあるのだけど、幅と高さが全然ないので、長さで選ぶとだいたいがばがばで緩い、ということになる。同じメーカーの中でも幅広タイプ、幅細タイプ、両方作っているところもあるけど、そうでない所も多いので、そうなると一度合ったところの靴の違うものを買うことが多くなる。

この足のつくりについて、きちんと知ったのは登山靴を買いに行ったときだった。よりどりみどり、おしゃれでかわいい色のものがたくさんあるイメージで、どれにしようかなあとワクワク期待してお店に行ったら、そこにはシューフィッターのおじさんがいて、彼がいうに、私が買える、私の足に合う登山靴はその店には一種類しかないとのことだった。こんなにあるのにこれしか選べないなんて!かなりびっくりして、ただ仕方ないのでその靴を買った。

けっこう明確に、これが欲しい、と思っても買えないのがKEENの靴。何度か店でチャレンジして、合わなすぎて諦めるという敗北をしている。KEENの靴はとにかく横幅が広い。みんなあれを履きこなせる足の形をしているんだろうか。そんなに合わなくてもデザイン重視で履いているんだろうか。